ガールズトーク

 
 オヤジばかり4人が居酒屋にいた。レバ刺しが自慢の店だ。レバ刺しとホッピー、鉄板の組み合わせにはオヤジを惹きつける魔力がある。最近はウィスキーのハイボールもなかなかイケる。何より値段が安いのがいい。
 
 店はほぼ満席。客が少々つめ気味に座っている小さめなテーブルの隙間を、ひっきりなしに店員が行ったり来たりしている。注文された料理や酒を運んでいっては客が食べ終えた空の食器をすぐに引き上げていく。そうしないと狭いテーブルに皿を並べるスペースがなくなってしまうのだ。
 
 
 
 店内を見回すと女性だけのグループが何組かいるのが見える。すぐ背後のテーブルにもそんな4人組がいた。年齢は20代半ば〜30代半ばくらいかな。楽しそうに飲み、食い、喋り、笑っている。どういうつながりなのだろうか、ちょっと興味が沸いてくる。
 
 
 
「ああいうのを女子会っていうんだろ?」
 
「女子会?」
 
「そう、女だけで飯食ったり酒呑んだりするんだよ」
 
「それからおしゃべり」
 
「どっちかっつーと、そっちのがメインかもしれない」
 
「そっちって?」
 
「おしゃべりだよ、ガールズトーク
 
「なんだそれ?」
 
「女子だけのおしゃべりだよ、だからガールズトーク
 
「だから、女子とかガールズとかって何だよ?」
 
「女だから女子とかガールズに決まってるだろ」
 
「ふざけんなよ」
 
「ふざけてねえよ」
 
「ふざけてるだろ」
 
「ふざけてねえって」
 
 
 
 ここで、重大な問題提起がなされた。
 
 
 
「女子とかガールズとかっていうのは、年齢的にいってせいぜい20歳までだろ」
 
「まあ、社会一般的には年齢的にその範囲におさまっているとみるのが妥当」
 
「だろ? そんなトシに見えるか? あれが?」
 
「ばっ、おまえ、指を差すんじゃない!」
 
「ずうずうしいとは思わねーか?」
 
「おまえ声がでけえよ、聞こえたらどーする!」
 
「そんなこと絶対よそで言うなよ」
 
「特に会社とかでは気をつけろ」
 
「すぐにセクハラとかなんとか言われるぞ」
 
「ヘタに目をつけられて痴漢冤罪なんてことになったらシャレにならんぞ」
 
「痴漢冤罪って、それはいくらなんでも大げさだろ」
 
「そうだぞ、どーしても女子とかガールズにイチャモンつけたかったら、心の中で(←自称)って付けとくだけにしとけ」
 
 
 
 オヤジたちがどう思おうが、女子やガールズのみなさんが自分たちのことを「女子」とか「ガールズ」と自分で呼んでいたら、彼女たちは「女子」や「ガールズ」なのだ。そこは絶対に譲れない。世の中とはそういうものだ。そのことは何ひとつ間違っていない。
 
 ここで女子とかガールズとかの定義について議論していても始まらない。それよりも、ガールズトークというものがどんなものなのか聞いてみるのも一興ではないか? 
 
 オヤジたちは、すぐ背後のグループに感づかれないように注意しながら、そっと聞き耳を立てることにした。
 
 
 
「そういえば、あのイケメンの彼氏とは、まだつづいてんの?」
 
「いやー、それが、ちょっとフクザツなんだよねえー」
 
「ねえねえ、イケメンの彼氏ってなによ?」
 
「知らないの? このコさ、すっごいカッコイイ男と付き合ってんの」
 
「えー、うっそー、どんな?」
 
「背なんかすっごい高くてさ、何センチだっけ?」
 
「190まではなかったと思う」
 
「年は?」
 
「3つ下」
 
「えー、どこで見つけたのよ? そんな物件」
 
「いいなー」
 
 
 
 恋愛ばなしでこんなふうに盛り上がっているということは、やっぱり女子とかガールとか言っててもいいんじゃないの? カワイイもんじゃん……と、オヤジの余裕をカマシながら聞き耳を立てている。
 
 
 
「アタシなんか、先月別れたばかり……」
 
「えええええ! うっそおおおおお!」
 
「アンタ、今度は結婚するかもとか言ってなかっけ?」
 
「それ、前も言ってたじゃん」
 
「ねえねえ、振ったの? 振られたの?」
 
「振られたっぽい……」
 
「えええええ! うっそおおおおお!」
 
「なんでなんでなんでなんで?」
 
 
 
 話題が根こそぎ転移したぞ!
 ガールズトークってすげえ!
 これは一瞬も気が抜けない!
 
 
 
「こないだ海外から帰ってきた友だちから聞いたんだけど、向こうの通販のCMって、けっこうエッチなんだって」
 
 
 
 と、ここでまたイキナリの話題転換!

 
 
「通販のCM?」
 
「エッチなのって?」
 
「うん、そっち系統のグッズとかね」
 
「そっち系統って?」
 
「ばかね、そっち系統っていったら決まってるじゃないのよ」
 
「それがね、あっちではプレゼントっていうか、ギフト用のもけっこうあるらしいのよ」
 
「ギフト用?」
 
「たとえば、友だちのカップルに送るとか」
 
「え? なになに? どんなの?」
 
「たとえばね、『ケン、マイクとルーシーからプレゼントが届いたわ』とかいってプレゼントの箱を開けると、中からグッズが3つくらい出てくるのよ」
 
「エッチなのが?」
 
「そう、それでね、『ワーオ! スイート!』とか言って喜んでるわけよ」
 
「大げさに?」
 
「そう、いかにもアメリカのコメディドラマって感じで両手広げたりして」
 
「なんかわかるわかる」
 
「さっそく今夜使ってみよう!って、前歯キラキラ☆みたいな?」
 
「そうそう、そんな感じ」
 
 
 
 エロネタ強し!
 さっきまでに比べてもテンションが急上昇。
 食いつきも断然ちがってくる。
 
 
 
「そういう系統以外にも、面白いのがあるんだって」
 
「どんなの?」
 
「掃除機なんだけどね」
 
「掃除機?」
 
「なに? 今度は家電?」
 
「それがちがうのよ」
 
「どうちがうのよ?」
 
「あのね、けっこう年配のご夫婦なんだけどね……」
 
 
 
 身振り手振りを交えての説明がはじまった。
 
 
 
「年配のご夫婦が寝室でコトに及ぼうとしているんだけど、奥さんが先にベッドに入って待ってるとこで、ダンナさんが掃除機をアノ部分に当てて……」
 
「アノ部分に当てて?」
 
「当ててというか、押し込んでというか」
 
「吸わせるの?」
 
「スイッチをオン」
 
「で、****状態になるわけ?」
 
「なるの?ホントに?」
 
「それで、『夫婦円満には****』とか言ってるわけよ」
 
夫婦円満?」
 
「だから、掃除機で****」
 
「ええええ、なんかそれヤだ」
 
「なんで?」
 
「だって、掃除機の後でしょ?」
 
「たしかにそれはイヤかもしれない」
 
「キレイに拭いてからにしてとか」
 
「拭いてるうちに****にならない?」
 
「せっかく拭いたのにまた掃除機?」
 
「で、また拭いてるうちに……」
 
「じゃあさ、それ専用のノズル使ったら?」
 
「専用のノズル?」
 
「そう、脱着式の、掃除用と****用と」
 
 
 
 バキューム式のT***Aみたいなモノを想像しちまったぜ。
 
 
 
「すごい細いノズルとかはどう?」
 
「なんか痛そうじゃない?」
 
「吸い込みキツかったら痛そうだよね」
 
「めっちゃ吸い込みソフトにすれば?」
 
「てゆーか、なんで掃除機にこだわるのかわからない」
 
「たしかに」
 
「それは言えてる」
 
「掃除機である必要ないよね」
 
「そもそも夫婦円満だったらね」
 
「掃除機に頼らなくてもいいよね」
 
「そうだよね」
 
 
 
 おっしゃるとおり。いちいち納得してしまう。
 
 
 
「ねえ、オジサンたちも、そう思うでしょ?」
 
 

 と、背中をいきなりバシッと叩かれたから、呑んでたハイボールを吹いちまったじゃねーか。
 
 
 
※このお話はフィクションです。実在の人物・団体等には一切関係ありません。ぜんぶ私の妄想です。