その肩に乗っかってるのは、もしかしてタダの飾りか?

 
「ブーラブラ支店から、株式会社タンタンタヌキの『債権申出催告書』が送られてきました」
 
 という声に伴なわれて1枚のハガキが目の前に差し出された。ハガキを持ってきたのは売掛金担当のスギタさん。売掛金担当一筋20年以上の大ベテラン社員だ。
 
 見ると、アカサカ県にある株式会社タンタンタヌキが、アオヤマ県にあるタンタンタヌキノキンタマ株式会社を合併してその権利義務一切を承継し、タンタンタヌキノキンタマ株式会社を解散することにしたので、異議があったら申し出てくれとある。
 
「ブーラブラ支店宛にこのハガキが届いたんだそうですが、どうしたらいいのか分からないと相談を受けたので本社に送ってもらいました」というスギタさんに向かって、
 
「どうしたらいいのか分からない?ってゆーか、このハガキの意味が分かってないんじゃないの?」という言葉をのみ込んで、
 
「ブーラブラ支店宛にハガキが届いたってことは、株式会社タンタンタヌキってのは、ブーラブラ支店のお客さんなんじゃないの? ところで、先方との取引はどうなってんの?」と聞いてみた。
 
 すると、
 
「直近では8月に納入実績がありまして、9月には売掛金を回収済みで、現在の売掛金残高はありません」と答える。
 
 おっ、ちゃんと調べてあるじゃん。と感心しつつ、
 
「じゃあさ、合併されて消えちゃうタンタンタヌキノキンタマ株式会社との取引は?」と、たずねると、
 
「タンタンタヌキノキンタマ株式会社との取引はありません」と答える。
 
「てことは、株式会社タンタンタヌキがタンタンタヌキノキンタマ株式会社を合併して、タンタンタヌキノキンタマ株式会社が消滅しても当社には何の影響もないということでいいんだよね? もとから何も権利義務がないから、受ける影響もないということで」
 
「はい」
 
「逆パターンだったら、現在の権利義務が、きちんと承継されるのかどうかの確認をして、覚書を結ぶなり、新たに契約を結び直すなりしなくちゃならないんだけど、今回のパターンの場合は何もしなくていいということだ。ブーラブラ支店に『異議なし』って伝えていいよ」
 
「はい、ありがとうございます」
 
 
 
 と、ふだんの仕事ぶりが信頼できるような部下との会話だったら、ここで終わっても何の心配も問題もない……はず。
  ↑
 本来なら、ね。
 
 
 
 でも、相手はスギタさんなんだよね……。
 念のため、買掛金担当のフジノくんにも尋ねてみた。
 
 
 
「株式会社タンタンタヌキと、タンタンタヌキノキンタマ株式会社と、どっちもの最近1年間の仕入の実績を調べてくれないかな? ついでに売上の状況も調べてくれると助かる」
 
「どうしたんですか?」
 
「ブーラブラ支店の顧客のアカサカ県にある株式会社タンタンタヌキとアオヤマ県にあるタンタンタヌキノキンタマ株式会社が合併するんだよ。合併それ自体はいいんだけど、もしかしてユーラユラ支店がタンタンタヌキノキンタマ株式会社と取引あったりして、合併後のメインの担当はどっちだ?とかいう問題が起きないとも限らないだろ?」
 
「そうですね」
 
「だから、両社とも売上と仕入の両方を併せて取引の有無を調べておきたい。そうすれば支店間の連携を含めて今後のアクションを起こしやすいだろ?」
 
「わかりました」
 
 
 
 フジノくんに取引状況を調べてもらっている間に、ネットで「株式会社タンタンタヌキ」と、「タンタンタヌキノキンタマ株式会社」を検索してみた。思ったとおり、両社は「タンタンタヌキ」グループのグループ会社であった。
 
 タンタンタヌキノキンタマ株式会社は株式会社タンタンタヌキの傘下の1社で、今回の合併により、本体である株式会社タンタンタヌキに吸収されることになったというのが真相のようだ。
 
 てことは、もし、仮にタンタンタヌキノキンタマ株式会社との取引があった場合、タンタンタヌキノキンタマ株式会社との取引に関連する権利義務関係は合併先の株式会社タンタンタヌキにおそらく引き継がれることになる。
 
 そこらへんの事務引継ぎなどに遺漏がないようにアシストするのが我われバックオフィスの役割だ。
 
 
 
「タンタンタヌキノキンタマ株式会社との取引状況は、仕入はありませんでしたが今年の6月に納入実績がありました。売掛金の回収は7月に終えており、現在売掛金の残高はありません」
 
「タンタンタヌキノキンタマ株式会社にも、売上、あったんだ」
 
「はい、ブーラブラ支店の扱いです」
 
「わかった、ありがとう」
 
 
 
「スギタさん」
 
「はい、何でしょう?」
 
「タンタンタヌキノキンタマ株式会社との取引については、今年の6月に売上実績があるじゃん」
 
「そうでしたか」
 
「そうでしたか……じゃねーよ! あんたの報告を鵜呑みにしてたら、とんでもない間違いを犯すところだよ?」
 
「すみません」
 
「もうちょっとアタマを使って考えてよ!」
 
 
 
 ブーラブラ支店の担当者も、売掛金担当のスギタさんも、自分のことや自分の仕事のことをよくわかっていないんだよ。何をどうしていいのかわからないんだ。だから、丸投げしちゃうんだ。誰かに丸投げしてしまえば、それを受け取った誰かが何とかしてくれると思っているんだろうね。まちがいない。
 
 
 
※このお話はフィクションです。実在の人物および団体等には一切カンケーないはずです。