あんたらの話なんか聞いてられまっかいな

 
 SとかMとかいう銀行の株主総会に出席してきた。会社がそこの株式を保有しているので株主としての権利を行使してきたというわけだ。
 
 株主総会が行われたのは都心も都心の大手町。
 
 例の福島第一原発の事故の影響などにより電力需給がひっ迫している折から、「節電のため会場の空調温度を高めに設定しています」と、軽装での来場を促す文言が株主総会の招集通知に書いてあったはずなのだが、会場ホールに用意されていた座席に腰掛けてみると、実際の冷房の効き具合は半袖ワイシャツ+ノーネクタイという“標準的”クールビズスタイルの私にさえ「寒い!」と感じられるほどであった。
 
「防寒対策に何か羽織れるものを用意してくればよかったな」
 
 そういえば、会場ホールとなった銀行本店建物のエントランスやエレベーターホール、入場受付から会場案内を担当する銀行員たちは全員がビシッとスーツを着込んでネクタイを締めていたし、会場内のステージに設えられた雛壇に雁首揃えて着席していた銀行のお偉方さんたちも全員がスーツにネクタイ着用だ。
 
 ようするに、「節電なんぞに協力する気はさらさらない」ということだな。
 
 口先では体裁のいいことばかり言っているけれど、じっさいの応対は単に仕草が丁寧なだけで、そこには誠意がまったく感じられないのは銀行員たるものの基本的行動規範であり、また、そのように行動できる人格を備えていることが彼らに求められている大切な資質のひとつでもあることがよくわかった。
 
 なあんだ、昔からちっとも変っちゃいないんだよね。
 
 
 
 総会の議事進行は議長の思惑どおりに進む。冒頭で、「進行途中には質問の時間は設けず、ひととおり全部説明し終わってからまとめて質疑応答を受け付ける」趣旨の宣言がされると、さっそく場内にいる株主のひとりから、
 
「動議!」の声があがる。
 
「質疑応答は議事の最後にお願いします」と応じる議長。
 
「議事進行に関する動議です」と株主。
 
「……、どういったことでしょう?」と、明らかに不愉快そうに聞き返す議長。
 
「質疑応答を最後にまとめるのではなく、議事の進行途中において適宜行っていただきたい」と株主。
 
 ホールには、どこに座っていても議長の顔がよく見えるようにと大きなモニターが複数設置されていた。モニターに大写しにされている議長の表情が私の目にもハッキリと見てとれる。この議長は動議にあまり関心をもっていないようだ。
 
「議事進行は議長に一任いただきたいのですが」と議長が言ってそのまま押し切っていくかと思ったところで、フォークボールを投げた。
 
「では、会場にお諮りしましょう。はじめに私が申し上げましたとおり、議事進行は議長にお任せくださるという方は拍手願います」
 
 いきなり採決?
 
 ちょっとビックリしていたら、会場から「パチパチパチパチ……」と、まばらに拍手が起きるのが聞こえてきた。つづけて、
 
「途中で適宜質疑応答の時間を設けてもよいとお考えの方は拍手願います」と、もう一方に賛同する人がいるかどうかを確かめるかと思っていたところ、それはせずに、

「ただ今、議事進行は議長の私に一任ということにご賛同いただきましたので、このまま議事を進行します」と締めくくってしまった。
 
 あれ? どっちの拍手が多いとか少ないとかで決めるんじゃないの? と、疑問を差し挟めるような間すら与えずに、とっとと議事を進めようという議長の強い意思が感じられた。
 
 
 
 なあんだ、やっぱり押し切っちゃうんだ……と、ちょっと安心した。
 
 
 
 おそらく相当以前から周到に準備されてきたであろうシナリオに沿って一方的に「説明」が終了し、いよいよ質疑応答の時間がやってきた。ここからは議長の本領を発揮する場面だ。
 
 この銀行は、今や日本中の注目を集めている東京電力の大株主でもあるし、多額の融資をしている大口債権者でもある。しかも、直近には東京電力の賠償金支払いなどを支援するという名目で、多額の追い貸しをしたばかり。
 
 当然、株主の興味もそこらへんにあったりするわけで、銀行が保有する東京電力株式の価格下落による損失の巨大さであるとか、東京電力の業績悪化が見込まれることによって融資の回収可能性が危ぶまれるのではないかというような、投資判断を左右するであろう重要な質問が続出する。
 
 
 
 これらの質問に対する、銀行側の回答の「木で鼻をくくりっぷり」がサイコーだったぜ!
 
 
 
 たとえば、こんな調子。
 
Q1: 東京電力向けの融資残高はいくらか?
A1: 個別案件にかんする質問への回答は控えさせていただきたい。
 
Q2: 東京電力に対する直近の融資の実行額は?
A2: 個別案件にかんする質問への回答は控えさせていただきたい。
 
Q3: 東京電力に対する融資実行に反対した取締役はいたのか?
A3: 行内にて慎重に討議した結果、融資実行を決断したしました。
 
Q4: 東京電力への融資の回収可能性をどのように評価するのか?
A4: あらゆる可能性について慎重に検討させていただきました。
 
Q5: 東京電力はすでに破綻しているとも考えられるが?
A5: 公共性や原発賠償法についても慎重に検討いたします。
 
Q6: 頑張っている中小企業を支援せずになぜ東京電力を支援?
A6: GDPの7割を生んでいる1都7県の電力供給を重視しています。
 
 
 
 質問に対して全く答えてくれていない。というか答える気がないのは明らかで、まったくもって「お見事!」としか言いようがない。さすがは天下のス○トモだ。昔から何にも変わっちゃいない。ある意味安心しちゃったぜ。