トリセツ?

 
 文章とは、「正しく伝わってこそナンボである」と思っている。
 
 10人が読めば、読んだ10人が10人とも、書かれた内容について同じ理解ができるような文章でなくてはならない、と。
 
 だから、自分が文章を書く際には、書き手である自分の意図したとおりに解釈されて当然というか、そこから外れた解釈を許さないというか、そもそも異なる解釈が成立可能となるような隙というか、そのような余地を残さないように万全の注意を払うべきだと考えている。
 
 なので、誰も意味を取り違えたり読み間違えたりしないように、難しい言葉づかいや言い回しをできる限り避け、読みやすくわかりやすい文章であるようにと心がけてきた。
 
 結果、トリセツ(←取扱説明書のこと)みたいな文章になっているというわけ。
 
 たとえば、「調節ツマミを左右へ回す」とか、「調節バーを前後にスライドさせる」とかいう具合に。

 こういうときに、左右というのは誤解されにくいのだが、前後というべきところをうっかり「上下」なんていうと、とんでもない間違いが起きることがあるので注意が必要だ。
 
 
 
 今から15〜6年ほど前のことだろうか、ウィンドウズが世界中に広まって、会社にもパソコンが普及した当時、高価な新品のウィンドウズパソコンが各課に1台プラス・アルファ台くらいの割合で配備された。
 
 その「プラス・アルファ」の1台が、課長や部長といった管理職のオジサマたちのデスクに置かれるという「不幸なデキゴト」が起きた。
 
 せっかく配備した最新鋭のウィンドウズパソコンである。きちんと使ってもらわなかったら、設備投資した意味がない。というワケでオジサマたち相手に「パソコン基礎講座」のようなものがシステム担当者によって繰り広げられたのだ。
 
 まずはマウスの操作から。
 
「画面上にある矢印をマウスで操作します。まずはマウスを上に動かしてみましょう」

 こんなの基本中の基本だと思うよね?
 
 今なら誰もが迷わずできるはずのこの操作。ところが、当時のオジサマたちの大半はマウスなんてものを触ったことがなかったから、言われたとおりにマウスを持った手を空中に掲げていたりしたんだね。
 
 
 
 このとき、講師はどう言えばよかったのだろうか?
 
 
 
「マウスを前に進めてみましょう」かな?
 
 まあ、正直言って、いろいろ面倒臭いといえば面倒臭い。できることなら、なるべく手間をかけずに伝えたい。
 
 でも、自分が思っているとおりというか、イメージしているとおりに伝えたいと思っているのなら、キチンと相手にそれが伝わるように、相手がわかる言葉を選んで伝える努力や工夫を、ちょっとでもサボっちゃダメなんだね。
 
 だから、これからも文章を書くときにはトリセツを書くみたいに書きます。正しく伝えたいと思うから。