砂糖とまちがえて塩を入れたコーヒーを、あなたは飲んだことがありますか?

 
「なにこれまっずい!」
 
「えっ? どれ?」
 
「このコーヒー!」
 
「そのコーヒー?」
 
「しょっぱい!」
 
「しょっぱい?」
 
「塩だ! 塩が入ってる!」
 
「塩が? 塩が入ってる? マジで?」
 
「マジで」
 
「うそ?」
 
「うそじゃないよ。ひと口のんでみな」
 
「どれ?」
 
「はい、これ」
 
 
 
(沈黙)
 
 
 
「どう?」
 
「ホントだね」
 
「マジまずくない?」
 
「うん、マジまじい」
 
「マジまじいよね?」
 
「てか、なんで塩なんか入れたの?」
 
「砂糖とまちがえたっぽい」
 
「なんで?」
 
「なんでだろ?」
 
「ともかく、コーヒーを入れなおそう」
 
「コーヒーを飲んだら、まちがえた原因を考えよう」
 
 
 
    *   *   *
 
 
 
 ふだんは、砂糖もミルクも入れずにコーヒーを飲んでいる。ので、砂糖とまちがえて塩を入れたコーヒーを飲んだというような経験はない。から、塩を入れたコーヒーがどんな味なのかは知らない。おそらく、しょっぱい味がするんだろうな、とは予想がつく。ただし、試してみるつもりはない。
 
 じっさい、コーヒーに砂糖とまちがえて塩を入れるなんてことが実際にありえるのだろうか?などという疑問とは別に、どうすればコーヒーに砂糖とまちがえて塩を入れるなんてことが起きるのだろうか、その原因について考えてみる。
 
 それを考えてみたところで何かの役に立つのかといえば、そんなことはほぼないようにしか思えないのだけれど、ちょっとしたヒマつぶしにはなるかもしれない。程度の心もちで。
 
 
 
 さて、コーヒーに砂糖を入れる際の動作について考えてみよう。たぶん、誰もがこんな感じで砂糖を入れているのではないだろうか?
 ↓
砂糖の容器からスプーンですくってカップにイン
 
……となると、砂糖のつもりでスプーンですくったものが塩である要因として考えられるのは、ワザとでなければつぎの2つ。
 
A: 塩の容器にスプーンを突っこんだ
B: 砂糖の容器に塩が入っていた
 
 
 
 ようするに、砂糖の容器と塩の容器とを取り違えたことが原因の、どちらも、よく気をつけていれば防げたであろう、うっかりミスだ。おそらく砂糖の容器と塩の容器はよく似たカタチをしていたのだろう。
 
 Aは、中身を取り出すさいのミス。
 Bは、中身を入れるさいのミス。
 
 正しく砂糖の容器を選んで砂糖を入れ、正しく砂糖の容器を選んでスプーンを突っこめばいいだけのこと。そうすれば、砂糖とまちがえて塩をコーヒーに入れたりするようなミスはおきないはずだ。
 
 ということは、だ。砂糖の容器と塩の容器とをうっかり取り違えたりすることがおきないように、両者に明確な違いというか特徴を持たせて、それを見分けるポイントにすればよいではないか。パッと見て、すぐわかるような。
 
 おそろいの容器でフタの色が違っているだけの、たとえば「赤いフタは砂糖、青いフタは塩」といったようなやり方ではダメだ。うっかり砂糖を入れた容器に塩用の青いフタをしたり、塩を入れた容器に砂糖用の赤いフタをするなど、両者のフタを取りちがえないとも限らない。
 
 けっして「まちがい」が生じることがないように、ここはテッテー的に砂糖の容器と塩の容器とをハッキリくっきり区別しよう。たとえば、「砂糖の容器は丸型で、塩の容器は四角い」といった具合に。
 
 さらに、容器の中身をスプーンですくって取り出すさいに、ペロッとひとくちなめて味見をすればカンペキかも。
 
 ここまでテッテーすれば、コーヒーに砂糖とまちがえて塩を入れたりするような、うっかりミスは防げるはずだ。
 
 
 
 ミスやエラーが生じたら、まずは最初にリカバリー。つぎに、その原因を突きとめて、再発防止策を講じる。なんか、これって、基本じゃない?
 
 
 
    *   *   *
 
 
 
「ねえ、おぼえてる?」
 
「何を?」
 
「前にさ、砂糖とまちがえて、コーヒーに塩を入れたことがあったよね?」
 
「あったあった、あれはマジまずかったよね」
 
「うん、マジまずかった」
 
「そのあと、まちがいが起きないように再発防止策を講じたんだよね」
 
「そうだったね」
 
「砂糖と塩と、ぜんぜんちがう形の容器に入れることにしてさ」
 
「それはそうなんだけど」
 
「そうなんだけど?」
 
「あのとき、なんで砂糖と塩をまちがえたのかな?」
 
「だから、それはとっくに解決ずみじゃん?」
 
「解決ずみだけどさ、とにかくマジまずかったんだよね」
 
「たしかに、マジまずかった」
 
「なんで、あんなにまずいコーヒーを飲まされたのかな?」
 
「それは、砂糖と塩をまちがえたからだろ?」
 
「なんで、砂糖と塩をまちがえたのかな?」
 
「だから、それは……」
 
「もしかして、ワザと?」
 
「そんなワケねーだろ!」
 
「なんでそこで怒るわけ?」
 
「怒ってねーよ!」
 
「怒ってるじゃん!」
 
「怒ってないってば!」
 
「ウソだね、その声は怒ってるときの声だもん」
 
「だから、怒ってねーってば!」
 
「ほら、やっぱり怒ってる。まずいコーヒーを飲まされた被害者はどっちだったっけ?」
 
「なんで今さらそんな話を蒸し返すかな?」
 
 
 
 とっくに解決ずみの、もう、そのことにかんしては考えることなど何もないはずと思っているような問題であっても、歴史を掘り返して蒸し返すひとはいるし、ケンカのタネにもなりうるのである。今回は、「地雷は意外なところに埋められている」という教訓についてのお話でした。
 
 けっして、油断してはいけませんよ。