昨日、ケンタッキーで

 
「ご注文はお済みですか?」だったか、それとも、
 
「何かお待ちでいらっしゃいますか?」だったか……。
 
 レジカウンターに一番近い席に座って左手に持った携帯の液晶画面に表示されている「加護亜依自殺未遂か?」とかいう記事を読んでいた私に近づいてきた、見た目専門学校生っぽいおそらくアルバイトだろう女子店員にまさかそんな言葉をかけられるとはまったく想定していなかったので、ほんのちょっとだけビックリした。
 
 
 
「油切り」
 
 
 
 心中の動揺を隠すように顔の向きはそのまま心もち右の眉を上げながら視線だけを右斜め45度上へ向け、彼女の瞳をチラッと見て、ふたたび視線を携帯の液晶に戻しながら、待っているものが何なのか短く答えた。
 
 
 
「は?」
 
 
 
 彼女には私の発した言葉が短すぎてよく聞き取れなかったようだ。
 
「油切りに2〜3分かかりますのでそちらのお席でお待ちくださいってアンタがそうゆうてたやん、もう、10分くらいたってもうたけどナ」
 
 パタンと携帯を閉じ、今度はアゴを持ち上げて顔を右斜め45度上へ向け、彼女の瞳を正面からしっかりと見据えてゆっくりとした口調で言い、軽く小首を傾げながら両の眉と左の口角を上げ、笑顔を作ってみた。視線はそのまま彼女の瞳から外さずに。
 
 
 
「す、すみません」
 
 
 
 急いでレジカウンターへと駆け戻ろうとする彼女の背中を目で追うことはしなかった。どうせすぐに私の「ご注文の品」を持ってここへ戻ってくるだろうから。
 
 バス通りに面した店の外は日も落ちてすっかり暗くなっていた。店の前の歩道と店内とは大きなガラス製の自動ドアで仕切られている。ガラス越しに、通りを走るクルマのヘッドライトが時々横切っていくのが透けて見えるくらいで、明るい店内の様子が反射しているのが見えているばかり。
 
 
 
「レシートはお持ちですか?」
 
 
 
 今度も手ぶらでやってきた店員の言葉にはもう一度ビックリだ。会計を済ませ、あとは商品の引き渡しを待つばかりになっているはずの客に「油切り」待ちを自分で指示したクセに、その客に向かって今さら会計が済んでいるかどうかを確認しようってのか? 何のために?
 
「レシートはお持ちですか?って、まさかオレに何を売ったんかわからんようになったんちゃうやろな?」
 
「す、すみません」
 
「レシートやったら、ほら、ここにちゃんとあるよ」
 
「し、失礼しますっ」
 
 レシートがテーブルに置かれるやいなや彼女はそれをひったくるようにしてレジカウンターへと走って行った。まさか、その「まさか」が図星だったとはね……。
 
 
 
「お待たせして大変申し訳ありませんでした。カーネルバースデーパックです」
 
 
 
 そう、9月9日はケンタッキーフライドチキンの創業者カーネル・サンダース氏の誕生日、「カーネルズ・デー」なのである。これを記念してオリジナルチキン3つとクリスピーチキン3つをセットにした「カーネルバースデーパック」を、通常価格が1160円のところ、なんと生誕記念の大特価スペシャルプライスの990円で販売しているのだ。(9月1日〜9月21日までの期間限定)
 
ケンタッキーフライドチキン公式サイト「カーネルバースデーパック」
http://www.kfc.co.jp/menu/detail/index.cgi?pid=OR_campaign_09

 
 
 
「以上でご注文の品はお揃いでございますね」
 
と、言うが早いか私に商品を押し付けるように差し出せば仕事は終わりとばかりにレジカウンターへと戻ろうとする彼女の背中に向けて、
 
「ちょっと待って」と声をかけた。
 
「レシート、返してくれへんかな? さっきあんたに渡したんのを持ってったままやん」
 
「あっ、はい、すぐお持ちします」
 
 
 
 レジカウンターの横や下をしばらくゴソゴソと探している気配がやんで、彼女がレシートと、あと、なんかカードみたいなものを持って現れた。
 
「お待たせしまして大変申し訳ありませんでした。お詫びにフライドポテトの引換券を差し上げます」
 
 
 

 
 
 
 どういう意図で彼女がそれを私にくれたのか、そのへんの理由はよくわからない。おそらく「原稿料(の、ようなもの)」だったのではないか?と、こちらの都合で勝手に解釈することにした。ので、こうしてケンタッキーの宣伝を書いてみた。
 
 こんなん、どや?