ツイてる?

 
 カウンターの奥から順に、エンジェルと呼ばれる女、サイレントと呼ばれる男、ホーリーと呼ばれる男の3人が並んで腰掛けていた。
 
 エンジェルとサイレント、ホーリーとサイレントはそれぞれに面識があるようだったが、エンジェルとホーリーのふたりはその夜が初対面。
 
 サイレントがふたりを引き合わせたのか、それともそれぞれ偶然居合わせたのかはわからない。というか、そんなことはこの際どうでもいい。
 
 エンジェルがカウンターに身を乗り出すようにしてホーリーに向かって何かを話しかけた。サイレントは少し背を反らし気味にして自分の前にスペースをあけ、ホーリーホーリーでカウンターを抱え込むような姿勢でエンジェルに返事をする。
 
 
 
ホーリーさんのこと、すっごく好きな女のひとがいると思います。奥さん以外に」
 
「え?」
 
「私わかるんです。そのひと、ずっと前からホーリーさんのことを好きでいますよ」
 
「見えるんですか?」
 
「ええ」
 
「なに? エンジェルって見えるひとなの?」
 
「(スルー)気づいてないですか? そばにいてますよ」
 
「それって、生霊ってやつ?」
 
「(スルー)べつに悪さをするわけじゃないので心配いらないとは思いますが」
 
 
 
 サイレントがホーリーの肩の上あたりを指差してエンジェルにたずねた。
 
「そばにいるって、もしかしてこのへん?」
 
「そのへんちゃうくて、このへん」とホーリーの腰の横あたりをエンジェルが指差した。
 
「上からじゃなくて、下から見上げているってとこがカワイらしいじゃん」
 
「サイちゃん、ちょっと黙っててくれる?」
 
「ごめん」
 
 
 
 エンジェルがホーリーの腰の横あたりをジッと見つめている。
 
 
 
「…………」
 
「動いたりするの?」
  
「…………」
 
 
 
 エンジェルがホーリーの腰の横あたりを引き続きジーッと見つめている
 
 
 
「そのコって、何かしゃべったりするの?」
 
「サイちゃんうるさい、黙っといて」
 
「あ、ごめん」
 
 
 
 数秒後、エンジェルが顔をあげて、
 
 
 
ホーリーさん、心当たりはありませんか?」
 
「うーん……、そういう心あたりは、ないです」
 
「ホントはいるんじゃないの? ホーリーさんステキ!とかいってるコが」
 
「サイレントさんったら、面白がってませんか?」
 
「ちょっとね」
 
「やっぱり(笑)」
 
 
 
 サイレントがエンジェルにたずねた、
 
 
 
「ぼくにもついてるかどうか、わかる?」
 
「ダイジョーブ」
 
「ダイジョーブ?」
 
「あんたにはついてない」
 
「だれも?」
 
「だれも」
 
「奥さんも?」
 
「ついてません!」
 
「ついてないんだ、誰も……」
 
「だーれも、ついてません」
 
 
 
 
「でもさ、オレって、自分はツイてるって思ってるんだ」
 
「ツイてるとは?」
 
「ラッキーだってこと」
 
「そうなん?」
 
「抽選にはよく当たったりするよ」
 
「なるほど、それで?」
 
「だからさ、オレはツイてるんだよ」
 
「わかります、実はボクも毎朝唱えているんですよ」
 
「何て?」
 
「オレはツイてる、オレはツイてる、って」
 
「それは、いい心がけやわ」
 
「いい心がけなの?」
 
「いい心がけやん、それが幸運を呼び込むんやん」
 
「そうなんです、これってすごく大事なことなんですよ」
 
「そうそう、そういうふうに思ってると、ホントにラッキーがやってくるのよ」
 
「へええ、ってことは、やっぱりオレってツイてるんだ」
 
「女の子はついてけえへんけどね」
 
「うるせーよ(笑)」