そこにいないひと

 
「ちょっと、アレはないんじゃない?」
 
「アレって何さ?」
 
「さっきまで側にいたコよ、ずっと声をかけてもらいたそうにしてたのに、アンタ、ずっと無視してたじゃない」
 
「そんなコ、いたっけ?」
 
「いたっけ?じゃ、ないわよ」
 
「どんなコ?」
 
「ちょっと地味めかな?って感じの、色が白くて、黒目がくっきりして髪がサラサラの」
 
「ごめん、ぜんぜん思い出せない」
 
「アンタって、いっつもそうなのよね、眼中にないってのはコレか!って態度すんのよ」
 
「まるで、姿が見えてないみたいって、よく言われてる、その感じ?」
 
「そうそう、そこには誰もいませんって感じでいるのよ」
 
「ほら、オレってさ、会話でも何でも夢中になっちゃうと、周りが見えなくなっちゃうことがあるじゃん、そこに集中しすぎるっていうか」
 
「たしかにそれは言えてるかも……、それで、自分が興味もってない相手やモノに対しては徹底的に冷たい」
 
「そうは言うけど、自分では冷たくしているつもりはないんだよ、ぜんぜん」
 
「だって、相手の存在自体に気づいてないんだものね?」
 
「そうなんだよ、自分にとって、そこにいない人に対して、どんな態度をとればいいのか、わかんないよ」
 
「そこにいないんじゃなくて、本当はずっとそこにいるんだけど、存在に気づいてもらえないから、いないも同然の扱いをされちゃってるのね、なんだかカワイソウだわ」
 
「カワイソウって言われてもなあ……」
 
「アナタのことよ」
 
「えっ?」
 
 
 
 
 
 
「ねえママ、あのおねえちゃんたち、寒くないのかしら?」
 
「?……やあね、だれもいないわよ」