コーヒーとコピーとシュレッダー

 
 オフィスの給茶コーナーにはコーヒーサーバーがあって、社員がホッとひと息入れたいときには、いつでも熱いコーヒーを飲めるようになっている。
 
 とはいえ、コーヒーポットには、常時タップリなみなみとコーヒーが入っているとは限らない。たまに、空っぽのまま放置されていてガッカリなんてこともある。
 
「誰だよ? 最後のヤツ。ちゃんと次の人のために入れとけよ」
 
 と、文句を言いたくなったりもするけれど、文句をいったところでポットがコーヒーで満たされることはない。なので、空になったことに気づいた人が、新しくコーヒーを淹れる当番を務めることになる。
 
 
 
 さて、当番とはよくいったもので、空っぽのコーヒーポットに当たったときに、文字通り「当たり」を引いたのだと私は考えることにしている。
 
 コーヒーポットは、常に淹れたて熱々のコーヒーで満たされていなければならない。じっさいにそこに来る人たちは、ホッとひと息いれたくて、熱いコーヒーを飲みに来ているのだし。
 
 しかし、それが空っぽだったということは、じつは、目には見えない大きなチャンスを手にしているのかもしれないんだよ。
 
 手にしたのは、空っぽのポットに、新しく淹れた熱々のコーヒーを、自分の好きなように満たしてよいチャンス。
 
 チャンスの活かし方はじつにカンタン。コーヒーサーバーに新しいペーパーフィルターをセットし、コーヒーの粉を必要量入れ、タンクに水を注げば終わり。これでカップに12杯分のコーヒーが用意できちゃうんだね。
 
 とゆーことは、コーヒーを飲みにきた12人の人たちに、「美味しい」とか、「ホッ……」と、ひと息つける、ほっこりタイムをプレゼントできるってこと。だよね?
 
「コーヒー淹れて、12ほっこりゲットだぜ」
 
――って考えたら、コーヒーを飲もうと思ってたのにポットが空っぽだったってことが、じつは、神様が自分にチャンスをプレゼントしてくれてたんだって思えるじゃん?
 
 
 
 オフィスのコーヒーポットが空っぽのときと似たようなのに、コピー機の用紙ギレや、シュレッダーくず満杯などがある。これらもまた、見えないチャンスだったりするんだよ。
 
 コピー機が用紙ギレを起こして止まってしまったときには、新しく用紙を補充しないと次のコピーはできませんし、用紙ギレは、コピーをとってりゃ必ず起きること。そんなのは分かりきってるはずなんだけど、
 
「ちぇっ、なんでオレのときに限って用紙ギレなんか起こすんだよ」
 
と、文句タラタラ言いながら用紙トレイを引き出し、500枚入りパックをビリビリ破いて用紙をトレイにセットして、
 
「ガシャン!」
 
と、トレイを乱暴に押し込んだりしているんだろうな。もしかして、呪いの言葉のひとつも吐きながらね。
 
 
 
 もったいない。
 
 
 
 じつにもったいない。せっかくのチャンスが台無しです。
 
 もうね、チャンスを活かすどころか、逆に、大きなマイナスなんですよ。オフィスの仲間たちみんなにとっても、よいことではありません。
 
 だって、せっかくセットしたばかりの新しいコピー用紙500枚の1枚1枚は、ネガティブな感情に感染しているんだもんね。オフィスの全員が呪いをかけられたといってもいい。
 
 こんなことでは、せっかくやってくれたことでも逆効果。かえって大迷惑だったりするかも……。
 
 
 
 どうせなら、コピー機の用紙ギレに当たったら、
 
「ラッキー♪ 今日のオレはツイてるぜ」って思えばいい。
 
 だって、500分の1の確率を引き当てたんだよ? スゴイことじゃないか。2回連続だったりしたら、
 
「なんだよォ、昨日につづいて2回連続の用紙ギレかよ」と、文句なんか言ってる場合じゃありません。
 
「すっげえ! 250000分の1だ! 国土地理院なみじゃん!」と、大喜びするべき場面です。
 
 
 
――というより、いつでも入れたての熱いコーヒーを飲むことができたり、コピー機を不自由なく使えたりするってことは、
 
「アタリマエのことではない」と思ってなくちゃ。
 
 誰かが、陰で支えてくれているからこそのアタリマエ。感謝しても罰は当たらないと思うなあ……。
 
 と、ゆーワケで、ときには陰で支える側に立ってもイイんじゃないの?