リコーダー天国。(前編)

 
 リコーダーを買った。
 
 そう、だれもがみんな1度は経験したことがある、小学3年生ぐらいのときにクラスの全員モレなく持たされ、音楽の授業で吹かされた、「たてぶえ」と呼ばれる長さ30センチくらいのアレを、オトナである私が、ワザワザ自分のために買ったのだ。
 
 どうしてかって?
 
 決まってんじゃん、自分で吹いて楽しむためさ。
 
 
 
 楽器買うなら楽器店だろ?というわけで、楽器店を訪ねることにした。
 
 と、ここで、リコーダーなんてものは小学校で一括購入したのを生徒全員に配るものであるだからして、ウチにはすでに娘のリコーダーが、高校2年生になって音楽の授業を受けなくなった今では全く使うことがなくなったのがあるではないか、なにゆえ新たに買わねばならぬ?という疑問が生じる。しかも、ソプラノだけではなくて、アルトまであるというのに?
 
 あなたは、高校2年生の娘に向かって、「いらなくなったリコーダー、お父さんが吹くからよこしなさい」と言えるお父さんですか?と問われて、「はい」と答えることのできるお父さんであるならそうすることもできるでしょうが、残念ながら私はそういうお父さんではないわけで。となると答えはひとつ。だよね?
 
 
 
 さて、訪ねた楽器店の管楽器売場にはリコーダーのコーナーがしっかりあって、ソプラノもアルトもテナーも、プラスチック製のも木製のも、揃えて並べて展示してあった。
 
 気になるお値段はというと、プラスチック製のものが千円〜2千円程度。木製のものが1万円〜3万円程度であった。木製のものは天然素材であるから、おそらく1本1本に個性というか個体差があるに違いなく、また、お手入れも相当に大変なはず。
 
 というわけで、ターゲットに据えるのはプラスチック製のソプラノ。気まぐれに、かつ、お気軽に吹いて遊ぼうというか楽しんでみようというのが動機なのだから、そのへんの選択は必要にして充分だろう。
 
 
 
 そういう目で商品を見ていると、ちょっとばかし気になることが。
 
 
 
 値段が同じで型番も途中まで同じなのに最後の1文字だけ違って種類分けされている(AとBみたいな)のがあるのだ。たとえば、
 
「111A」と「111B」とか、
「222A」と「222B」みたいな。
 
 よく見ると「A」のものには「バロック式」、「B」のものには「ジャーマン式」と書いてある。バロックとジャーマンって、いったい何のことだ?
 
 そういうときに役に立つのが、経験・知識とも豊富な店員さんの存在だ。さっそくつかまえて聞いてみる。
 
バロック式とジャーマン式の違いって何ですか?」
 
「孔の開け方の違いです」
 
「というと?」
 
「右手の人差し指で押さえる孔と、中指で押さえる孔の大小に差があるのです」
 
「差があると何が変わるの?」
 
「ファの音の押さえ方が違うのです」
 
 ファの音の押さえ方というのは、むかし習ったことがあるから知ってるぞ。左手を上に、右手を下にして持ったときに、左手の小指以外の指で上から下まで全部の孔を押さえてド。だよね?
 
 ドの次は右手の小指を離してレ、つづけて薬指も離してミ、さらにつづけて中指も離してファ……と、下から順番に孔を押さえている指を離していけば、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、と1オクターブ鳴らせるようになっている。小学校3年生の音楽の授業であなたもそう教わったでしょ?
 
「それはジャーマン式ですね」
 
バロック式はどうするの?」
 
バロック式のファの音の押さえ方は、ジャーマン式のファに右手の薬指も追加で押さえるのです」
 
「レの押さえ方の中指外し?」
 
「そういうことです」
 
「それってやりにくくない?」
 
「もともとリコーダーはバロック式でした」
 
「そうなの?」
 
「ジャーマン式は小学校などで教材として使われることが多いです」
 
「下から順番にドレミファソって教えやすいもんね」
 
 
 
 じっさい、ジャーマン式はソプラノとソプラニーノの一部に採用されているだけで、アルトやテナーやバリトンなどのほかのリコーダーはバロック式のものしか作られていないのだという。
 
 ってゆーか、そもそもバロック式が本式で、ジャーマン式ってのは学校教材向けに指導しやすいように改造を加えた簡略モデルってことなんじゃね?←さっきからそう言ってるだろ!と、ツッコむところです(笑)
 
 とゆーわけで、バロック式にしようかジャーマン式にしようかで迷うのはソプラノリコーダーを選ぶときだけ。アルトやテナーなどほかの種類のリコーダーの場合はバロック式より選択の余地はないのです。
 
 てことは、ソプラノ以外にもアルトやテナーなどほかの種類のリコーダーを吹くつもりがないのであればジャーマン式を選んだところで何らの問題は生じない。が、後々アルトやテナーなどほかの種類のリコーダーを吹きたくなったときに改めてバロック式の指づかいを覚えなくてはならなくなるので、今のうちからバロック式に慣れておいて損はない。はず。
 
 
 
 さて、どーする?
 
 
 
「私、サックス吹きなんで、サックスと同じのがいいです」
 
「それなら、ジャーマン式の方がいいかもしれませんね」
 
「それじゃあ、ジャーマン式に決めます」
 
「アルトやテナーを吹くんでしたらバロック式をオススメするんですけどね」
 
「ソプラノしか吹くつもりないのでジャーマン式がいいです」
 
「アルトやテナーはお吹きになりませんか?」
 
「アルトやテナーはサックスで吹いてるからイイです」
 
「リコーダーではアルトやテナーをお吹きになりませんか?」
 
「リコーダーではソプラノしか吹くつもりはありません」
 
 
 
 もしかして、今すぐではないにしろ、アルトやテナーも勧めてるのか?とも思ったが、今のところそんなつもりは全くなくて、ソプラノリコーダーを1本、気ままに、お手軽に吹いて楽しむことができればそれでよいと思っている私に迷いはない。
 
 購入するのはジャーマン式のソプラノリコーダーに決定。候補は半分に絞られた。
 
 
 
(後編につづく)