思い出した!→「忘れないで」

 
 知り合いに楽器を習っているひとがいて、今年の夏に、レッスンに通っている音楽スクールの合同発表会が行われるという話を聞いた。なんでもライブハウスを借り切って演っちゃうんだとか。
 
 発表会とは、スクールの生徒さん達が日頃のレッスンの成果を発揮するお披露目の晴れ舞台のことである。ということは、人前で演奏しちゃうということだよね、どう考えても。というか、フツーに考えればそうに決まっているわけで、たとえば、「ギター習ってます」というひとから、
 
「こんど、発表会あるから見に来ない?」
 
 と、誘われて会場に行ってみたら、木を切り出して、削って、磨いて、組み立てて……なんていう、ギターづくりの制作過程の一部始終を実演しているところだった、なんて話は今まで一度も聞いたことがない。あたりまえか。
 
 
 
 音楽スクールの発表会での演奏といえば、課題曲を決めて、ボーカルやギターやキーボードやドラムだとかといった、生徒さんたちが通っているレッスンの科目ごとにそれぞれパートを担当するメンバーが集まってバンドを組み、みんな揃ってバンド演奏の形をとるのが一般的。だよね?
 
 そういえば、と、ついでに思い出したんだけど、私も今から20くらい前の平成3年頃から平成5年頃にかけて3年間ほど、週に1度、渋谷の音楽スクールに通ってサックスを習っていたのでした。あは。
 
 ついでのついでに、そのころ私が通っていたスクールでも合同発表会というのが確かにあって、やっぱり各科の生徒さん達を寄せ集めてバンドを組んで演奏したっけな、というところまで思い出してしまったわけで。
 
 となると、どんな曲やってたっけ?ってのが気になるね、みたいなところから記憶をたどってみることにした。
 
 
 
 というわけで思い出したのがこれ。ドリカムの「忘れないで」という曲。(平成3年11月にシングル発売されたっぽい)
 
 
http://youtu.be/S6ZX6T2K0ts

 
 
 吉田美和さんの眉毛が、今と比べるとずいぶん太いですね。というのはおいといて、4分ちょいあるこの曲の、始まって2分半くらいのところに間奏がありますが、20秒くらいサックスのソロがあるんですね。たしか私はそこを担当したはず。
 
 そうそう、こんなふうにでっかい肩パッド入りのスーツ着てました……ではなく、たしかにこんな曲でした、「忘れないで」って。
 
 と聞いていたら、最後の方にもボーカルにかぶせるようにサックスのパートがありましたね。そういえば、たしかにそこも吹いていたように記憶しています。懐かしいね。
 
 
 
 そもそも、なんでサックスなんか吹こうっていう気になったんだろう?
 
 
 
 やっぱこれかな? RCサクセションの「スローバラード」。サックスソロがカッコよくてシビれたよな。
 
 
http://youtu.be/isu0KI7KVx8

 
 
 あともうひとつ、映画「ブルース・ブラザース」より、「Think」。アレサ・フランクリンの迫力のボーカルのバックで調子よく鳴ってるサックス。こういうのを吹いてみたいと思ってた。
 
 
http://youtu.be/SoFTCuMyDCs

 
 
 しかし、じっさいに、自分がメインで演りたいって希望したのはこれ。
 
 
http://youtu.be/e_xez2kVFjA

 
 
「マジですか?」
「マジですよ」
「ホントにやるんですか?」
「ホントにやりますよ」
 
 
 
 ウケると思ったんだけど、ね。
 

マイクロSDって意外と使い勝手がイイと再認識したデキゴト。

 
 デジカメのSDカードをプリンタに直接挿して、その中から好きな写真を選んで、好きな枚数だけ自分で写真を印刷することを覚えた高1の娘が、今度は、
 
「友達の携帯に送りたいから、やり方教えて」
 
 とか言い出したので、デジカメのSDカードに保存されている写真データをPCに取り込み、それをメールで携帯に送信したいのだろうと考え、PCを起動しておくよう指示しておいた。
 
 今回、娘に教えておきたいPCの操作は、SDカードからのデータ取り込み方法と、データのメールへの添付方法のふたつ。もし、余裕があれば、ついでに写真のリサイズとか、編集方法なども教えてやろう。
 
 数分後、PCを起動してもいないのに、
 
「写真なら、送っちゃったからもういいよ」とか娘が言う。
「どこから?」
「アタシの携帯から」
「どうやって?」
「ふつーに、SD挿して」
 
 デジカメに挿していたSDカードは、マイクロSDカードにアダプタを装着したもので、もともと、
 
「大きなサイズのSDカードは、小さなサイズのマイクロSDには使えないけど、逆に、小さなマイクロSDだったら、アダプタをカマせば大きなサイズのSDカードとしても使えるからおトクだよね」
 
 とかいって、量販店で「公告の品」として安売りしていたのを2〜3枚余分に買っておいた、そのうちの1枚だったのだ。
 
 娘は、アダプタを装着されてノーマルSDカードのサイズにされたマイクロSDカードをデジカメから抜き出したときに、
 
「あ、これの中身って、もしかして携帯に挿さってるのと同じじゃん?」と気づいたのだという。
 
 で、試しにアダプタから外したマイクロSDカードを、そのまま携帯に挿してみた。すると、難なくそれを読み込めた。から、携帯の写真編集機能でサイズを小さく編集して、試しに友達に宛てて送信してみたら、
 
「なんだかうまくいっちゃった、えへ」だと。
 
 もしかして、こういう、「試してみよう」という姿勢が、人生をドライブさせていく原動力になったりするのかもしれない、と、ちょびっとだけ思うことにした。
 

啖呵切ってみたくなった。

 
 てめえふざけんなこのやろう、今まで何年その仕事やってんだ?

 そんなのミスでも何でもねえ、重大な手抜きだ。言ってみりゃあ飲食店が昨日魚を捌いた包丁とまな板を洗わずに、今日もそのまんまの包丁で捌いた刺身を出すようなもんだ。中毒起こして当然だろうが?
 
 そんなことになってみろ、営業停止どころじゃ済まねえぞ。下手すりゃ店が潰れちまう。そうなっちまっちゃあ、これ以上あんたをここには置いとけねえ。さあ、とっとと板場から出てってもらおうか。
 
 ……というようなことが起きた。オブラートに包むのに苦労したぜ。
 

ほたるこい

 
 ほう ほう ほたるこい
 あっちのみずは にがいぞ
 こっちのみずは あまいぞ
 ほう ほう ほたるこい
  
 突然ですが、真冬の寒さのなかであるにもかかわらず、なぜだか理由はわかりませんが、「ほたるこい」の歌詞が気になってしまったのでぐぐってみた。ぐーぐるさんてば、季節感にかかわりなく教えてくれるので便利ですね。
 
 結果、ほたるに呼びかける掛け声の部分が「ほう ほう」だったと知った。これは意外。今までずっと、「ほーほー」だと思っていた。「ほうほう」と「ほーほー」を聴き分けるのって難しい。つーか、そもそも区別して発音していたかどうかすらあやしいぞ。などということは脇に置いて、あんがい、耳コピっていい加減なものだな、と思った。
 
 気になっていたのはこの部分
  ↓
 あっちのみずは にがいぞ
 こっちのみずは あまいぞ
 
「あっちのみず」が先で、「こっちのみず」が後だったのか、
「こっちのみず」が先で、「あっちのみず」が後だったのか、
「どっちのみず」が先だったっけ? てゆーか、もしかして、
「そっちのみず」が先だったかもしれない……。なんてね。
 
 というようなことを考えていたら、もっとずっと現実的というか、実践的なアイデアを思いついてしまったのだね。もしかしてこれは、あっちにいるほたるを、甘い言葉(こっちの水は甘いよ、こっちへおいでよ)で、こっちの方に誘い出し、みごとに捕まえるウマい手口なのではないのか?って。
 
 
 
 お互いに距離のある交渉相手をこちらに歩み寄らせるためのエサとして、「どうぞ」と美味しいケーキを差し出すのもひとつのテだ。が、それだけだと、相手はケーキを食べ終えたら元の位置に戻っていっちゃうかもしれない。相手をそのままその場に留まらせておくために、こちらはケーキを与えつづけなくてはならなくなってしまう。これは、先々のことまでを考えるとイロイロと負担が大きかったりするよね。
 
 というわけで、たいしてこちらの負担にはならずに、しかも、相手をこちら側に引き寄せたままにしておけるような巧いテはないものか?と考えてみた。
 
 もしかして、相手の立っている向こう側の、相手の足もとにできるだけ近いところに、ウ●コを1コ、落っことしてみたらどうなるだろう? 
 
 相手は、足元のウ●コを踏んづけてしまわないように、あわててそこから飛び退いて、こっちに寄ってくるのではないだろうか? しかも、ウ●コは、それを誰かが片付けないかぎり、その場から消えてなくなることはない。そこにウ●コが落ちているとなれば、相手は二度とあっち側に戻っていこうとはしないだろう。まさにこちらの思うツボではないか。
 
 実際にウ●コをそこに置かないまでも、「そこにウ●コが落ちてるよ!」って、相手の足元を指差して教えてやるだけでも効果がありそうではないか。試してみる価値、ありそうじゃん?(笑)
 
 
 
 というわけで、これを、「あっちのみずを濁して汚して苦くて飲めなくしてしまえば自然とほたるはこっちにくるんだぜ作戦」と名付けることにする。
 
 
 
※じっさいには、清らかな水を濁して汚して苦くて飲めなくしてしまえば、ほたるは全滅してしまいます。川を汚さないようにしましょう。
 

今年の1月の長さは異常。

 
 カレンダー上のことにすぎないんだが、いちおう、平成24年の1月が今日で終わりを迎えた。私は現在、仕事を終えて帰宅する、自宅までの経路の途中の地下鉄の車内にいる。
 
 車内(変換一発目に「社内」と表示されて軽く凹んだなんてことは、この際どーでもいい)というからには、もちろん乗車中に決まっている。けっこうくたびれての乗車中ってことで、よろしくな。
 
 会社帰りといえば、くたびれていて当たりまえといえば当たりまえなのであるが、今日のくたびれ加減ときたら、通常イメージされるような当たりまえを越えて、一段とくたびれ感が漂う程のくたびれ加減なのである。
 
 おかげで、ひとつひとつのセンテンスが、なんだかズルズルとだらしなくのびたそうめんのように長くなってしまっていることに気づいていながらも、それにはまったく気づいていないフリをしつつ、知らんぷりしたまま、さも長いセンテンスなんか書いちゃいませんよといわんばかりの風を装って、無駄にぐだぐだと長く引き延ばしているだけみたいなことになっているのだ。
 
 なんか、切れの悪いウ○コみたいだね。
 
 とかなんとかいってるあいだに、乗っていた地下鉄は自宅への最寄り駅へとつづく地上を走る私鉄への乗換駅に着いてしまった。なんか、いつのまにか時間を忘れてしまったみたいな気がしてしまう。
 
 時間を忘れるといえば、今年の1月は、時間の感覚が狂ってしまったかと思えるほどに長く感じてしょうがなかった。やたらと時間に追われ急かされて過ごしていたはずなのに、今日は、
 
「あれ? まだ1月おわってねーじゃん」という気分マンマンだったのだ。
 
……というのも、去年までとはまるで違うスケジュールで動いていたから。
 
 去年までのスケジュールは、だいたいこんな感じだったと思えばわかるかな?
 ↓
1月の半ばをちょいと過ぎた17〜8日頃までに決算の数値を「おおよそこんなもん」ってだいたい固めたことにして監査法人の監査に臨みつつ、取引先との債権債務の残高確認にかかる時間を稼ぐ。
 ↓
 そうこうしているうちに、1月の月末の支払い準備やら何やらが始まっちゃうので、それらを並行して進行。
 ↓
 1月の月末が明けて2月に入ったら、月末進行中に作成していた「決算短信」について、監査法人の監査を受ける。
 ↓
 決算短信の監査を終えた、だいたい2月12〜3日頃に短信発表。
 
 
 
 なのに、今年ときたら、1月の終盤の先週のうちには既に決算短信の発表を済ませてしまっているわけだ。
 
 なので、気分はもう、2月の半ば、って感じなんだよね。
 
 ここまで、日程的には6割弱の短期間のうちに、量的には1.2倍強の仕事量をこなしてきたという実感。密度にして約2倍。というわけで、
 
「あれ? 今日って、まだ1月じゃん。1月、長がっ!」
 
 
 
 たしか、明日から2月、なんだよね。
 

そんな接待、カッコわるいよ。

 
「あれ? この領収書、カードで支払ってんじゃん、なんで現金での精算を請求してくるわけ?」
 
考えるよりも先に内線をかけていた。
 
「ああ、ウチダくん? ちょっと経理まで来てくんない? キミの接待交際費精算で、ちょっと確認したいことがある」
 
 受話器の向こうのウチダくんは、「今ちょっと忙しくて……」とか、何かそんな感じに返事したというか、少々面倒くさそうな雰囲気を醸しだしていた。10年早えーんだよ。入社してまだ7年めぐらいの、30歳にもなっていないワカゾーがノーガキたれてんじゃねーっつーの。
 
「今すぐ来てくんない? なにぃ? 今すぐって言ったら今すぐだよ……、ごちゃごちゃ言ってねーですぐ来い!」
 
 
 
 ウチダくんの接待精算書には、わりかし高層のビルが立ち並ぶ東京タワーのお膝元にあっては珍しく、広い敷地面積を贅沢に使った広大な庭と、ほとんど平屋づくりだけの建物が自慢の某有名店の領収書が添付されていた。記載されている金額は12万円。
 
 接待先は、これまた某有名企業グループの小規模ながらも社長さま副社長さま専務さまの大幹部3名さまの揃い踏み。対するわが社も負けじとナガサワ社長とコニシ取締役営業本部長と入社7年目のウチダくんの3名。両社あわせて合計6名、領収書に12万円と書かれているということは、割り勘でなければ(←当社のオゴリということ)、ひとりあたり2万円の接待だったということだ。
 
 この接待、実施前日のウチダくんの仮払申請により現金で9万円を持ち出していた。持ち出した仮払金の9万円で接待できればよかったのだが、じっさいには12万円使ってしまったので、これでは3万円が不足する。というわけでウチダくんは不足する3万円の追加払いを請求してきたのだ。
 
 
 
接待費の不足額として3万円を現金で追加払いしてくれっていうキミの申請が、どーも腑に落ちないんだけど?」
 
「現金で9万円を持っていったんですが、じっさいには12万円かかったので、3万円足りなくなっちゃったんです」
 
「9万円の予算に対して12万円使ったから、3万円超過したっていうのはわかる、でもさ、領収書にはカードで支払ったって書いてあるよな? ってことは、現金9万円がまるまる余っただろ? 返してくんない?」
 
「たしかにカードで払いましたけど、3万円足りないんですよ」
 
「何それ? 意味わかんない」
 
 
 
 ナガサワさんとコニシさんには会社名義の法人カードを持たせている。このふたりが一緒にいる接待の会計をカードで支払ったってことは、当然、ふたりのうちのどっちかの法人カードを使ったんじゃねーのか? てゆーか、そーゆーときのために法人カードを持たせているんだぞ、何でカード払いなのに現金が足りないとかいうわけ?
 
 
 
「じつは、ボクのカードなんです」
 
「はあ? ナガサワさんもコニシさんも、法人カードを忘れてきたってことか?」
 
「そんなことではないと思いますけど……」
 
「じゃあ、なんでキミみたいな下っ端が自分のカードで払ったりしたんだよ?」
 
「おふたりとも話が盛り上がっていて……」
 
「会計のことを言えなかったってのか?」
 
「はい……」
 
「アホか? 段取り悪すぎだろ、それ」
 
「すいません……」
 
「そういうときは、お店に協力してもらうとか何とかできそうなもんだろうがよ、トイレに行くフリでも何でもしてさ、会計のときにツケにしといてもらえるように話つけとけよ」
 
「すいません……」
 
「そんな程度の機転も利かせられない下っ端社員のクセに、キミが個人のカードで立替払いしちゃうなんてさ、ウチの会社は社員にそういうことをさせて平気な会社だって思われちゃうだろ? ダッセー会社だって笑われてるぞ、ってゆーか、まわりから軽く見られるんだよ、そうなったら恥をかくのは社長だぞ、わかってんのか?」
 
「すいません……」
 
「なんだよ、さっきから、すいませんばっかりじゃないか」
 
「すいません……、あっ、はい……」
 
「キミさ、そういうことを誰からも教えてもらってないのか?」
 
「はい……、すいません……」
 
 
 
 1年間に、ひとりで接待交際費を700万円〜800万円も使うナガサワさんだって、最低でも月に2回程度、しょっちゅう通ってツケが利くはずの銀座の店で、なぜか毎回のように現金で会計を済ませてくるひとだもんな。ある意味しょうがないといえば、しょうがないのかもしれない。
 
 何がスマートで、何がダサいのか……、そういう「イロハのイ」みたいなことを、ウチの会社の営業マンたちは、誰も知らずにいるんだな……。
 
 
 
※このお話はフィクションです。実在の人物・団体等には一切カンケーないはずです。(笑)
 

まわしてまわしてまわしてまわーすー♪

 
 Aさん(××部の部長)宛てに、取引先であるZ社のYさんから問合せのメールがきた。メールの宛先には、CCでBさん(△△室の室長)も含まれていた。メールにはエクセルのファイルが添付されていた。
 
 メールの内容は以下の通り。
 

                                      • -

 
【件名】
 お問合せ
 
【本文】
 A部長殿(CC: B室長殿)
 
 いつもお世話になっております。
 Z社のYです。
 
 教えていただきたいことがあります。
 添付のファイルに数値をご入力ください。
 
 以上、よろしくお願いいたします。
 

                                      • -

 
 添付されているエクセルファイルの該当箇所にホニャララの数値を入力し、Z社のYさんに宛てて返送することによって問合せに回答せよ、というのが今回のAさんに課せられたミッションらしい。
 
 Aさんには「ホニャララの数値」というのが何だか分からないので回答できない。そこで、CCされていたBさんに相談することにした。
 
「Bさん、どうしたらいいでしょうか?」
「Cさん(○○部の部長)に頼んだらいいんじゃないですか?」
「じゃあ、Bさんの方からCさんに頼んでもらえますか?」
「え? 私からですか?」
「お願いします」
 
 Aさんは、自分が主導権をとって何かをするということが、とことん苦手な人なのだ。
 
 Aさんから頼まれたBさんは、Z社のYさんからのメールをCさんに転送した。転送メールにはBさんによる本文が1文字たりとも書き込まれていなかった。おそらく、そこには見えない文字で、
 
「よしなに」と書かれていたに違いない。
 
 
 
 Cさんがメールの着信に気づいたのは、あともう10分もすれば18時になろうという頃、何となくメールチェックをしたときだった。メールの送信時刻を見ると、そこには「14:20」と表示されていた。
 
「いったい何だろう?」
 
 メールのヘッダ情報を見れば、Bさん→Cさんへとメールが転送されてきたことぐらいはわかる。しかし、BさんからCさんへ宛てたメッセージが1文字たりとも書かれていないので、何を思ってBさんがメールを寄こしたのか、Cさんにはさっぱり見当がつかない。てゆーか、そういう頼みごとをするのなら、ひとこと言ってくれればいいのに……と、気持ちに少々イラッとくるものを感じていた。一日に何度も喫煙室で顔を合わせているではないか。
 
 しかたがないので転送された元のメールに目を通すと、Z社のYさんがAさんに宛てて「ホニャララの数値を教えてください」と依頼してきた(らしい)ことが読みとれた。
 
「添付されてきたエクセルファイルにホニャララの見積り数値を入力すればいいのか」
 
 Cさんが添付されていたエクセルファイルを開こうとしたところ、ファイルは開けず、代わりにこんなメッセージを読まされることになった。
 
「パスワードを入力してください」
 
 すでに退社時刻を5分ほど過ぎていたので、BさんもAさんも、ふたりのどちらも内線電話には出なかった。
 
 
 
 翌朝、Bさんからファイルを開くパスワードを聞き出したCさんは、直属の部下である課長のDさんを自席に呼び、Bさんから転送されてきたメールの本文と添付されてきたエクセルファイルを紙に印刷したものを2枚並べて示し、Dさんに命じた。
 
「この表の空欄にホニャララの数値を書き込んでくれ」
「承知しました」
 
 
 
 しばらくたって、ホニャララの見積り数値を書き込み終えたDさんは、数字を埋めた用紙を持ってCさんの席へ近づき、Cさんに声をかけた。
  
「ホニャララの数値です。これはC部長にお返しします」
「あ、それはZ社のYさんに送っといてくれ」
「Z社のYさんにですか?」
「うん、それから、CCでBさんにも送っといてくれ」
「私から直接Z社に送っちゃって、いいんですか?」
「マズいのか?」
「Z社さんから依頼を受けたのはAさんですから、Aさんから回答するのがよろしいかと」
「どうせアイツ(←Aさんのこと)は何にも分からないヤツなんだから、Aなんか放っとけ」
 
 
 
 たしかに、Aさんはボンクラかもしれない。しかし、いちおうはZ社さんとの窓口役を仰せつかるべき役目を割り当てられたポジションに就かされているのだから、ここはAさんを立てるというか、筋目を通しておいた方がよさそうな気がするんだけどな……と、Dさんは考えていた。
 
 ここで、自分が「上司であるCさんの命令だから」といってZ社のYさんに直接メールで回答すると、わが社の信用はどーなる?
 
「あの会社、ウチの問合せをタライ回しにしやがった」と思うのではないか?
 
 そうでなくても、窓口役になっているAさんの対応に「あれ?」と思わされたことが幾度かあるはずだから、Aさんが、ちょっとやそっとのボンクラではないことぐらい既にお見通し、というか織り込み済みのはず。いくらボンクラだからといっても、そこまであからさまに窓口役のAさんのことを蔑ろにしていたのでは、
 
「あの会社、組織としての指揮系統が崩壊しているのか?」とも思われかねない。
 
 
 
 せめて、ボンクラのAさんが使えないなら使えないなりに、そこは、たとえばBさんからZ社のYさん宛てに、
 
「お問合せの件につきましては、○○部の課長のDから回答いたします」と、根回しぐらいしておけばいいのに……。
 
 
 
※このお話はフィクションです。実在の人物・団体等には、一切カンケーないはずです。(笑)